「コスパ」。この言葉のデタラメさにウンザリしている人も少なくないだろう。どこを見ても「コスパ」。耳を傾ければ「コスパ」。その結果、増えたのは混乱。
私はこの言葉が流行し意味を失う原因があると思っている。それは「ワンオペ育児」や「ブラック企業」に見る原因と同様だ。あなたには原因を知った上でこの言葉の撲滅を薦めたい。
もはや意味をなしていない「コスパ」
これを目にしない日はない。耳にしない日もない。
「コスパ」という表現に関して、あなたも下記のような感情を抱いたことがあると思う。
私は溢れかえる「コスパ」なる言葉のデタラメさに辟易し、激しい怒りすら覚えるようなった。
近頃では「コスパ」と書かれているレビューには片っ端から「参考ならない」「違反報告」などをクリックしている。「コスパ」本来の意味を成しておらず「レビュー」の条件を満たしていないからだ。
お前が評価しているのは「コスト」「プライス」だろ
乱用される「コスパ」には特徴がある。
それは「コスト」あるいは「プライス」にしか関心がないことだ。
「パフォーマンス」の部分はどこに行った?と問いたくなる感想ばかり。結局のところ「コスト」ばかりを気にかけ「プライス」にしか関心がないのだ。
「コスパ」乱用の原因は「緊縮財政」
「コスパ」という言葉が狂ったように用いられるようになったこと。これには政策的な原因が絡んでいると私は観ている。
これが私の考える原因。緊縮財政とは政府が極力お金を使わないことだ。結果的に実体経済が縮小または停滞しそれが続く(ロングラン・スタグネーション)。そして、多数の国民が貧乏になる。つまりは不景気で国民全体の収入が伸びないということ。
緊縮財政には二つの要素が大きく関与している。それは「PB」と「B/C」である。「PB」と「B/C」とは何か。それらがどのように関与しているのかを説明しよう。
「PB」の導入と「B/C」の悪用
「PB=プライマリーバランス=家計簿」
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「PB」とは「プライマリーバランス」のことだ。「プライベートブランド」や「粒子ビーム」の略だと思った人もいるだろうが、当記事における意味はこれらではない。
そう思った人は大きな見落としをしている。日本には「通貨発行権」があるということを。言わずもがな日本はお金を作る権限を持っている国だ。
「家計簿」はお金を作れない場合に必要なもの。よって「PB=プライマリーバランス=家計簿」は全く無駄な概念なのだ。三橋貴明氏に「おこづかい帳」と揶揄されるのもやむなし。
これが「PB=プライマリーバランス=家計簿」の考え方。「お金のプール理論」とも呼ばれている。
「PB」が当てはまるとすれば、都道府県やユーロ圏の各国など「独自の通貨発行権がない共同体」だ。当然、我が「国」は当てはまらない。
「PB=プライマリーバランス=家計簿」の概念があるかぎり「緊縮財政」から逃れることは困難だ。
プライマリーバランス 国と家計はぜんぜん違う
それ、お札を作って遊ぶ「札ルンです」っておもちゃ♪/事件じゃねーか!/足して2で割って手作りのお金でどうでしょう
実のところ「緊縮財政思想」は憲法第九条と抱合せの「財政法第四条」により植え付けられている。終戦後まもない昭和二十二年のことだ。
「財政法第四条」とは「(空想的)平和主義」に基づくもので「積極財政は戦争への道」という考え方。日米安保条約が加わることにより、その考え方は強固になった。
「PB」の導入は「グローバリズム」の推進の一環。「グローバリズム」とは「国家間のヒト・モノ・カネの移動」をしやすくすることだ。「新自由主義」とも呼ばれる。
「(空想的)平和主義」と「PB」は相性が良い。何故なら共通点があるからだ。その共通点とは「積極財政は悪、緊縮財政こそ善」という思想。
「PB」は平成十三年に竹中平蔵大先生が突っ込んだもの
財政法四条自体は憲法九条の裏書き
グローバリズムのトリニティ
【徹底解説】緊縮財政は<空想的平和主義>の基礎である【財政法第4条】
「緊縮財政」の悪影響は幾つもある。そのひとつが「所得の低下」。正確には「所得格差の拡大」。
所得が低下するとどうなるか。「安得短」に走る。「安得短」とは「より安く」「より得を」「より短い期間で」という感情である。
これが進むと「とりあえず使えるものを安く買いたい」という気持にすり替わっていく。この気持が間違った「コスパ」の用い方に反映されている。
「B/C=費用対便益」
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「B/C」は「ビーバイシー」と読む。「B=ベネフィット(便益)」「C=コスト(費用)」である。
つまり「B/C」とは「費用対便益」あるいは「費用便益分析」「費用便益比」「費用対効果」のこと。
土木技術者が作った理論である「B/C」は、経済学方面で多用されるようになり、一般にもこの概念が広がった。本来の「コスパ」は「B/C」の概念と近似している。
「B/C」は土木技術者が作った理論
公共事業や大規模開発などには「B/C」が重要だ。しかし、この「B/C」は公共事業や大規模開発などをさせないための理屈として「悪用」されているのが現状。
どのように「悪用」されているのか。長期的な資産価値(ストック)を考慮せず、短期的な利益(フロー)のみを強調するために「B/C」を持ち出すのだ。
前項で示した通り「PB」による「緊縮財政路線」があるため「Aの予算を増やすにはBの予算を削る」という思考しかできない。
こういった意見が有力になってしまうのだ。
水道民営化は政府が金を出すのが嫌だから
公共事業は「ストック」として初めて成果が出る
公共事業というのは単年度の「フロー」の言葉からは観えてこない
採算性だけで見るというのがこの国にこびりついてしまった
歪んだ損得勘定の蔓延
「PB」導入や「B/C」の悪用により世の中は「損得勘定」優先になってしまった。その「損得勘定」は今や完全に「短期化」し、すぐに得と感じる「安さ」を求めるだけの観念に成り果てたのだ。まさに「歪んだ損得勘定」の蔓延。
「損得勘定」の歪み具合は深刻で、結婚や男女関係にまで及んでいる。結婚、恋愛、性交にも「コスト」の観念を持ち込んでしまうのだ。
悪名高い(と私が確信する)経済学者ミルトン・フリードマンの弟子である「ゲーリー・ベッカー」は結婚生活に「B/C」の手法を持ち込み、彼の友人で法律学者の「リチャード・ポズナー」は、いわゆる「性」も市場に流通させると安くなると唱えた。
「ゲーリー・ベッカー」「リチャード・ポズナー」両名の理論は日本の「構造改革」の基礎になっているのだ。
「日本の構造改革」の原理となったベッカーとポズナー
だが、人生は数値化できないものが多くある。大抵は「コスト」で割り算して数値にできるものではないのだ。普段の買い物もどれだけの分野が数値化できるのか疑問である。
例外があるとすれば衛生分野。使い捨ての衛生用品ならば「B/C」や短期的な「フロー」の考え方が当てはまるかも知れない。洗浄や消毒を繰り返すより、廃棄と新調をするほうが好ましいと考えるのは私も概ね賛成する。
一方、衛生分野以外に「損得計算」が当てはまる対象があるのだろうか。耐久性という要素を加えても単純に「損得計算」できないのだから、対象分野の方が少ないと考えるのが妥当である。
数字の魔力
「コスパ」の用いられ方に「コスト」や「プライス」という側面しか反映されない理由は「PB」「緊縮財政」の他にまだある。
それは「数字の魔力」だ。
人間は数字に惑わされやすい。そして、服従しやすい。
この項目は別記事にする予定。とはいえ記事にするまでもなく、あなたは「数字の魔力」を日々体感していることを知っているだろう。
タイムセール、二重価格、期間限定、ハイスペックなどで。
そして「コスパ」は殺された
以上のことから【コスパは「PB」に殺された】という記事タイトルの意味が何となくご理解いただけただろうか。わからないぞという人のために要約しておこう。
コスパは「PB」に殺されたという主張の要約
こんなところだろうか。殺されたという表現がオーバーと思うか否かはあなた次第。私はオーバーだとは思わない。現下「コスパ」の用いられ方は悲惨だからだ。
「PB」は「ワンオペ育児」という用語も生み出していると私は考える。「ワンオペ育児」については別記事にて持論を展開している。
当該記事内では全く触れていないが「PB」がなければ「ワンオペ育児」なんてふざけた言葉は出てこなかっただろう。
「コスパ」レビューを撲滅せよ
「コスパ」が溢れかえる事情を納得いただいた上であなたに伝えたい。
「PB」により殺された「コスパ」は役に立たないどころか「害」であり「コスト」や「プライス」の視点しかない感想は購入を検討する際に「妨げ」でしかないからだ。「コスパ」乱用は社会悪である。
コメントができる媒体なら私は発信者に直接意見を述べる。
それができない環境なら掲載元へ報告を行っている。問い合わせフォームや報告ボタンなどを使って。
加えて自分が購入した商品のレビューで「コスパ」批判をしている。その一部を下記しておく。
私の「コスパ」批判レビュー
California Gold Nutrition, BCAAパウダー、AjiPure®(アジピュア)、分岐鎖アミノ酸、454 g(16 oz)
(略)
BCAAを摂取する目的について書きましたが「何のために摂るのか」これはサプリメント全般に言えます。
足りない栄養素を補うためであったり、パフォーマンスを向上させるためであるはず。身体へのアプローチが主目的。
にも関わらず、「味の事にしか触れていないのに」評価を下げたり安いだけで「コスパコスパ」と連呼したり、凡そサプリメントレビューとは言えないものばかり。
味と金でサプリメントを語るなんて本末転倒です。味覚だけを語るのなら嗜好品のレビューでどうぞ。味と金の事しか書いていないレビューは私にとって邪魔でしかありません。
サプリメントを摂る目的とコスパの意味をよく調べてからレビューしろと言いたい。
もしあなたが「コスパ」の乱立と語義の崩壊に憤りを覚えているなら、積極的に批判行動をとってほしい。
そして「コスパ」を撲滅しよう。